僕の親父の生き方。

f:id:nanpa-miyamoto:20170922010049j:plain僕が生まれた時、僕の親父は30代後半だった。親父は遅くに結婚をした。両親にはあまり詳しく結婚に至るまでの経緯を訊いたことはないんだけど、多分お見合い結婚なのかあと勝手に想像している。

親父はほとんど自分で商売をするまでほとんど定職に就いたことがなかったらしい、就職しても続かず、少し続いてもよくサボって怒られて、クビになってたらしい。そんな感じでずっと、まるで斜めから自分の人生を俯瞰してる様な生き方をしている、今も。

親父の親父、つまり僕のおじいちゃんは戦争に行って帰って来てから関西で商売人になった。田舎のツテで繊維工業に明るかったから、地元からごっそり衣類なんかを運んで闇市で売りばく、その繰り返しでそこそこのお金持ちになった。だから親父は僕と同じで子供の頃からお金に困ったことがなかった。家のペットはシェパードで別荘もあった。多分なんでも、買ってもらったんだろう。よくおじいちゃんは僕に「あいつは金の価値がわかっとらん、おばあちゃんが甘やかしすぎた」とボヤいていた。おじいちゃんは品物を持って来れば飛ぶ様に売れる環境で商売をしたから売れるのは当たり前だろうと思ってしまうけど闇市だから危険はたくさんあり警察に捕まって逃げたり不良外国人に殺されそうになったりしたらしい。だから、文字通り命がけで稼いだとも言える。

そう考えると僕自身もお金の価値なんてわかってないんだろうなと思う。


親父はおじいちゃんが稼いだ金で国立の幼稚舎に入ってエスカレーターで高校まで卒業した。


親父はそのことに関しては自分からは言わなかった。僕ならそんな名門校に幼稚舎から通ってるなんて自慢以外のなんでもないと思うんだけど、親父は言わなかった。

初めて親父の学歴を訊いたのは高校の受験勉強の時に数学の問題、国語の問題を全てスラスラ解いたから「すげえな」と思った時。確かに家の倉庫には本が山ほど積んであって普段から読んでいる新聞もNYタイムズ紙だったり知的欲求も高く、なんでも知っていた、なんでもだ。小さい頃に疑問に思ったことには全て回答してくれた、「わからない、後にして」なんて言われたことが無く、わからないことでも自分で調べて教えてくれた。


そう親父は頭がすこぶる良かった。

そこで疑問が生まれた。直接訊いた事はないけど、親父はなんでこんな頭がキレるのにニートなんでなの?と。大学、大学院と通って高度成長期真っ只中だから大企業から引く手数多だったんじゃないかなと思う。

でも、僕は答えを知っている。そう訊くとこう答えると思う。


「ねんどくさいしおもろないやろ」


そう言うと思う。これが僕の親父の生き方の根源だと思う。親父はやりたことや興味のあることしかやらない主義なのだ。


僕は親父の生き方を小さい時は恥じらっていた。なぜなら俺が小学四年生の時には商売をたたんでいて、家にずっといたから。想像もして欲しい、自分の親の仕事は何?と話題に上がった小学四年生の気持ちを。しかし生活は母親が教師だからお金には困っていなかったと思う。そう、そこも恥じらう原因となっていた。親父が働かないのは母親が教師だからだと思っていたし、多分そうだった。うちのお母さんが稼いでくれてるから俺は働かない。

今となっては「流石、親父、筋通ってんなあwww」と草が生えるが、当時は父親がずっと家にいるニートだと友達には言えなかった。


ただ親父がニートで悪い点ばかりではない。親父は僕とめちゃくちゃに遊んでくれた。一緒に二人だけでカブトムシを採りに行くためだけに旅行に行ったり、釣りに行ったり、してくれた。もちろん家でも遊んでくれたし、受験勉強の時は大変力になってくれた。


僕は親父を恥じらう気持ちもあったが生まれた時から親父を気に入っている。親父とはウマが合う、趣味も考え方も性格もとてもとても似ている。性格も穏やかで酒もタバコもやらない、夜遊びもしない、浪費癖もない。社交的ではあるけど1人が好きで早朝にベランダでコーヒーを飲みながら本を読んでいる、実にカッコイイと思う。ちなみに啓発本やプレジデントなんかの意識高い系を読むとアレルギーがでるらしい。本当に心の底から働きたくないと思っているのだ。実際商売をやめて以来、働きたくないから一切働いていない、実に筋が通ったお話だとも思う。


母親に「あの人どう思う?」と訊いても「あの人はこういう人」と前向きに諦めて自分で稼いできてくれる。


それは多分親父もニートなり頑張ってるからだと思う。急な子供達の用事や、普段の家事なんかは全て親父がやっていた。まさに専業主夫の先駆けだった。それと1番は親父は感謝の言葉を言える点だと思う。時々親父は母親のことを僕たち兄弟の前で褒める事があって「お母さんのこういうところが気に入ってる」とか「お母さんはお前たちを生むために命がけで頑張ったんだよ」と母親を褒めた。当時は全く何も感じなかったけど家族が仲良く過ごせている大きな要因だと思う。親父まじでカッコイイ。


僕は今の属している業界で独立することを望んでいる。独立して売れる、そして、それが現実のものになるためにそれまでに至るプロセスを励んでいる。そうやって必死に働く僕のことを親父は大変喜んで応援してくれている。これは意外なことではない、親父は自分が働いていないから自分以外の人間の勤勉さを尊び、素晴らしいと思うのだ。それに親父は「親の逆を行くのが息子ってもんだ、俺はおじいちゃんが働いたから俺はフラフラしていた、今度はその逆だ」と言っている。いやーもう実に清々しいと思える。「社畜になんかなるな、そう育てた覚えはない」確かにそう育てられた。自分の力で生きろと、そう運だけで生きてきた男にそう育てられた。


そして実は親父は60を超えた今年から大学生になった。短大の社会人コースというものがあるそうだ。何故いま大学に?と訊くと「暇だから英検一級を取ろうと思って」と言っていた。時々親父からLINEがくるが女子大生とも上手くやっているみたいで楽しそうだ。歳をとっても学びたいと思える意欲を失っていない親父はカッコイイ。親父…やっぱカッコイイよ。


そんな限りなくクズ寄りの自称高等遊民である親父の生き方を尊敬しつつ僕は逆の生き方、つまりバリバリ働いて資本主義のハリケーンの中に突っ込んでいこうと思う。


どちらの生き方がダメだとか素晴らしいだとかそういうことではなくて「これが自分の生き方なのだ」と、そう胸を張って生きることが大切なのだと僕はクズ寄りの自称高等遊民との交流によって感じた。


おわり。