プロ野球選手になりたいと相談された話

「先の長い人生ですから、宮本さんに相談したいです。僕はまだプロ野球選手になりたい、諦めては駄目でしょうか」


僕は昨日こう25歳の後輩に相談された。


後輩とは同じ高校で出会いました。彼は一つ下の学年で野球部に入ってきました。一応僕らが所属していた野球部は公立高校ながらも何回かは甲子園を狙える所まで行くくらいの「そこそこ公立やのにヤルやん」と言われるレベル。

ただ私立の強豪校は強いんです、桁違いに。そこは誰がなんと言うと歴然とした線引きがなされていて、試合開始の整列の時なんか立ちはだかる壁でしかありません、腕も太い脚も太い自信に満ちた顔、なんやったらちょっと僕らが見下されているような感覚さえ感じてしまう余裕があるオーラ。レベルが2個3個も上で同じ高校生とは思えませんでした。


まあ練習の内容、練習の質、練習設備の差がモロに出てしまうのがスポーツです。そこに一流の指導者なんかつけて全国の有望な中学生を見て回るスカウトなんかいるんですから鬼に金棒ですよ…


でも僕らはなかなか健闘しました。僕の代の最後の地方予選大会でベスト16です。これは本当に自分たちを褒めてあげたい。ある程度野球知ってる人に話すと、その県で公立でベスト16なら大したもん、ヨシヨシ。ってされるくらいなんです。そして僕らは夏で引退、。彼はあと1年必死のパッチで頑張ってねという時期でした。彼はその代のエースになりました。


卒業してからの道は僕は専門学校に行き1年後就職します。

彼は僕が卒業した(彼らの代は予選大会二回戦止まりだった)1年後大学に入学しました、勿論野球をするためにです。

そこでエースになってバリバリビシビシ打者をなぎ倒していったのかは知りません。多分、なぎ倒していってないでしょう、何故なら今彼はプロ野球選手じゃない。


そして4年後その大学の監督のツテでなんとか社会人野球のある企業に就職し野球をできる環境に身を置けました。彼には相当ハッピーな出来事だったと思います。


「2年で駄目なら2年でドラフトにかからなかったら野球やめようと思います」彼は2年前僕にそう言いました。彼なりにもやめ時というか踏ん切りをつけなければならない社会的な年齢な25歳だったのかもしれません。大卒で25歳ならなんとか転職もできるでしょうし、今従事している企業さんにそのままお世話になるのも大変結構な選択だと思いますし。覚えてる限りでは僕もその時「それがイイ。ここから2年やれなかったらもう才能がない、諦めような」そう言いました。


そして2年が過ぎます。昨日でした。


「先の長い人生ですから、宮本さんに相談したいです。僕はまだプロ野球選手になりたい、諦めては駄目でしょうか」


要約すればそう云った内容のLINEが来ました。最初は「野球が終わったあとの人生の方が長いですから何か考えないといけません。今は英語を学びたいと思っています」そう言った内容でした。

まぁ、僕も社会人7年目なんでこーこーこーはこーこーこーでと、自分で言うのもなんなん?キモない?と思うくらいにめちゃくちゃ丁寧に心身にお答えしました。しかし、彼からのレスポンスは何故か歯切れが悪い……その理由はもう一つしかありません、彼はまだプロ野球選手になりたいと思っているのです。


僕は100%応援できるんですよ。迷いないです。だって野球を1度でものめり込んだ人なら誰でも思うんですよプロ野球選手になりたい」そう本気で思います。僕だって思ってました。もしタイムマシンがあったのなら競馬の大穴レースの発走5分前でも運命の人だと思ったあの彼女が僕の無神経な言動で別れ決意する5分前でもなく、間違いなく小学1年生の4月に戻って近所の少年野球クラブに入って死ぬほど練習します、心の底からそう思います。プロ野球選手になって億を稼ぎます。イイ車に乗って球場まで行き試合でビシバシと活躍しヒーローインタビューで悦に浸る。ついでに可愛いくて知的なアナウンサーと結婚するのです。

そんな夢見て生きてきたから彼の気持ちも痛いほどわかる。


それでも冷静に考えてみて彼は25歳なんです。ハッキリ言ってみれば「賞味期限は切れている」それはそうだと思います。

ただ遅咲きでプロに入った人も現にいてて、それなり活躍しているのは事実なんです。

確率の話をしましょう。まず彼がプロ野球選手になれる確率は0ではない。地球あって秩序があってプロ野球機構があればある意味誰でもなれる。38歳でメジャーリーガーになった人だっている。プロ野球の世界にも46歳からデビューした人もいる。ただのそれは戦後間もない頃ですけど…。

彼にはまだプロ野球選手なれる余地がある、それは言い切れる。プロ野球選手になれない、それは本当に言い切れない。「なれるかもしれない」そんな希望に満ちた言葉が彼にとって本当に最良のアドバイスかはわからない。


「2年で辞めるって言ったよな?」


いやそれは言えない。だってなれるかもしれないから。結局当たり障りのないところに落ち着く。そんなレールが相談をうけた瞬間に僕の脳味噌の中で引かれてました。


僕は多分、いや絶対他人のお話なら「なにそいつまだ25歳にもなって幻想いだいているのか。やめとけやめとけ」そう言っていると思います。

プロ野球選手になる壁の高さは知っている。なったとしても平均寿命4年の世界ですから…。相当何かを持ってないと生き残れるような世界ではありません。彼は手足が長いわけでもなく150キロ投げれるわけでも、キレッキレのウイニングショットを持っているわけでもありませんから。



「まだ上手くなる感覚があるなら諦めないでおこう。なくなったら諦めよう」


そこに落ち着きました。彼も「そうします、今年プロテスト受けます。落ちてもその感覚があれば続けてみます」そう言いました。


ハッキリ言ってダブルスタンダードになります。辞めろと言っても、辞めるわけでもないでしょうし結局のところ彼がガス欠なるまで走り続けないと辞めませんから。


オチなんて全くないけどこのお話はこれで終わりです。本当にプロ野球選手になれたらええなぁ、そう僕は心の底から思います。